体外受精・顕微授精・凍結融解胚移植の流れ
卵巣刺激
通常の月経 (自然周期)では、左右どちらかの卵巣で1個の卵胞 (卵子が入った袋) が大きくなっていき、月経14日前後で袋が破れて1個の卵子が排卵されます。一方、体外受精では複数の卵子を得るために、排卵誘発剤を使用して複数の卵胞を発育させます。これを卵巣刺激といい、当院では主に下記の方法を行っています。どの方法を行うかは、患者様のご希望を伺いつつ、ご年齢やホルモン値、治療歴に応じて決めていきます。
- クロミフェン
(+ hMG)法
- 月経3日目からクロミフェンを5日間内服していただきます。卵胞発育の状態によっては、hMGの注射を数回追加する場合があります。卵胞が約18mmまで発育したら、卵子の成熟を促すhCGの注射を行います。
- GnRHアゴニスト
ショート法
- 月経3日目以内に点鼻薬 (GnRHアゴニスト)を開始します。点鼻薬には、卵胞発育効果および発育した卵胞の排卵抑制効果があります。hMGの注射を月経3日目頃より開始し、経腟超音波で卵胞発育の状態を確認しながら連日注射を行います。卵胞が約18mmまで発育したら点鼻薬の使用を中止し、卵子の成熟を促すhCGの注射を行います。
- GnRHアンタゴニスト法
- 月経3日目頃よりhMGの注射を開始し、経腟超音波で卵胞発育の状態を確認しながら連日注射を行います。卵胞が約14mmを越えた時点で、ガニレスト (GnRHアンタゴニスト)の注射を併用します。ガニレストには、発育した卵胞の排卵抑制効果があります。卵胞が約18mmまで発育したらガニレストの注射を中止し、卵子の成熟を促すhCGの注射を行います。
- PPOS法
(Progestin Primed Ovarian Stimulation)
- 月経3日目以内に黄体ホルモン剤を飲み始めます。黄体ホルモンには発育した卵胞の排卵抑制効果があります。hMGの注射を月経3日目頃黄体より開始し、経腟超音
波で卵胞発育の状態を確認しながら連日注射を行います。卵胞が約18mmまで発育したら黄体ホルモン剤を中止し、卵子の成熟を促すhCGの注射を行います。この方
法で卵巣刺激を行った場合は新鮮胚移植はできません。
採卵
卵子の成熟を促すhCGの注射を打ってから35時間後に採卵を行います。超音波プローブにつけた長い針で卵胞を穿刺し、卵子を採取します。採卵個数が少ない場合は無麻酔で、複数個採卵する場合は静脈麻酔を使用します。
ご主人には、採卵当日に自宅で採精し検体を持参頂くか、当院の採精室で採精して頂きます。ご主人の予定が合わない場合は、採卵前日までに精子を凍結保存しておくことも可能です。
受精
採卵した卵子は、体外受精または顕微授精によって受精させます。複数個採卵できた場合は、体外受精と顕微授精を半分ずつ行うことも可能です。
- 体外受精
- 運動性の良い精子を一定濃度に調整し、シャーレ内で卵子と出会わせます。
- 顕微授精
- 運動性と形態がよい精子を顕微鏡下で選び、細いガラス管で卵子に注入し受精させます。
培養
採卵翌日に受精判定を行います。受精した胚は専用の培養液で、体内と似た環境にて大切に培養します。受精後は最大6日間培養を行い、その間に胚移植や凍結保存を行います。どの段階で胚移植や凍結保存を行うかは、患者様のご希望を伺いつつ、ご年齢や治療歴、胚の状態によって決めていきます。
胚移植
胚を細いチューブに入れ、子宮の中に戻します。胚移植では麻酔は使用しません。
移植胚の個数については、日本産婦人科学会の見解で『移植する胚は原則として単一とする。ただし、35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった女性などについては、2胚移植を許容する』とあるため、当院でも1個または2個とさせて頂いております。
なお、胚移植時にアシステッドハッチング(AHA:胚の周りにある透明帯と呼ばれる柔らかい膜を、人工的に薄くしたり穴をあけたりして、胚が着床しやすい状態にします)を行い、またヒアルロン酸含有培養液を使用することで着床しやすくします。
胚移植後は、子宮内膜を育て着床率を高めるために黄体ホルモンの補充を行います。
妊娠判定
胚移植から約2週間後に、尿および血液検査にて妊娠判定を行います。
胚凍結および融解胚移植
採卵後、移植胚以外に良好胚がある場合は、胚を凍結保存します。
これにより妊娠のチャンスを増やすことができ、二人目以降の妊娠希望時に融解して移植することもできます。また、採卵後に卵巣が腫れている場合や子宮内膜が薄い場合は、胚移植に適さないため、移植をキャンセルし、一旦全ての胚を凍結保存します。胚は凍結保護剤で処理し、-196℃の液体窒素内で保存します。
次の月経周期で凍結胚を融解し移植します。当院では「ホルモン補充周期」で融解胚移植を行っています。月経2日目から子宮内膜を厚くするために卵胞ホルモン剤を使用します。
子宮内膜が充分厚くなったところで、黄体ホルモン剤を開始します。凍結している胚が受精後3日目の胚であった場合は、黄体ホルモン剤投与開始から3日目に胚を融解し、移植します。
着床不全の方へおすすめする検査・治療
良好胚を繰り返し移植してもなかなか妊娠に至らない場合、子宮内環境の異常が着床(受精卵、胚が子宮内膜と接着すること)を妨げている可能性があります。
検査により異常が認められた場合には適切な治療を行うことで、着床しやすくなると考えられています。
- Th1/Th2検査
- 血液検査で、細胞性免疫(Th1)と液性免疫(Th2)のバランスを調べます。細胞性免疫が強いと胚移植した受精卵を異物として攻撃してしまっている可能性が考えられるので、胚移植周期に拒絶反応を抑える薬を服用します。
- 料金
- 30,400円 (税込)
- 子宮内フローラ検査
- 腸内と同じく、子宮内にも善玉菌が存在します。この子宮内フローラが乱れ雑菌が増えると、子宮内膜で免疫が活性化し、受精卵を異物として攻撃してしまう可能性があります。子宮内フローラ検査によって子宮内にどのような細菌および善玉菌がいるかを調べ、雑菌が多い場合は抗菌薬、善玉菌が少ない場合はラクトフェリンの摂取や乳酸菌膣剤で子宮内の乳酸菌を増やすことをお勧めしています。
- 料金
- 1回目 49,500円(税込)
2回目 33,000円(税込)
- ERA(子宮内膜着床能検査)
- 胚移植をする時期の子宮内膜組織を採取し、その遺伝子発現を調べることで、子宮内膜が着床にいちばん適している時期を判定する検査です。
同時に子宮内膜細菌検査(EMMA)、感染性慢性子宮内膜炎検査(ALICE)を行うこともできます。
- 料金
- ERAのみ 135,000円 (税込) [再検査の場合 76,000円 (税込)]
ERA・EMA・ALICE 168,000円 (税込)
EMA・ALICEのみ 69,000円 (税込)
- PFC-FD療法(多血小板血漿、platelet-rich plasma療法)
- 患者様ご自身の血液から、血小板に含まれる成長因子を抽出して凝縮したものを、子宮内に注入する方法です。血小板由来の成長因子は、細胞の成長をうながす物
質や免疫にかかわる物質を含むため、着床不全が改善される可能性があり、受精卵が着床しやすくなると考えられています。
- 料金
- 198,000円 (税込)